就労移行支援とは?障害や病気を持つ方の就職を支えるサービス
【はじめに】働きたいという気持ちと、障害や病気への不安の間で
障害や心の病気(うつ病や発達障害など)を抱えながら、「また働きたい」「社会とのつながりを持ちたい」という気持ちはあるものの、同時に「自分に合う仕事が分からない」「就職活動をどう進めればいいか不安だ」「今度こそ、長く働き続けられるだろうか」といった、大きな不安を感じていませんか?
そのように、働きたいという前向きな気持ちと、障害や病気への不安の間で揺れ動いている方を、専門的な知識とプログラムでサポートするための公的な福祉サービスがあります。それが就労移行支援です。
この記事では、就労移行支援がどのようなサービスで、誰が利用でき、具体的に何をしてくれるのか、そしてどうすれば利用できるのか、その全体像を分かりやすく解説していきます。
就労移行支援とは?その目的と役割
就労移行支援とは、障害者総合支援法という法律に基づいた福祉サービスの一つです。障害や病気を抱える方が、一般企業への就職を目指すために必要なスキルや知識を学び、就職活動のサポートを受けられる場所です。
多くの方が誤解しやすいのですが、就労移行支援の目的は、単に就職すること(内定を得ること)だけではありません。本当のゴールは、その方が就職した後も安定して長く働き続けること(職場定着)にあります。
そのため、就職活動の支援だけでなく、その前段階である職業訓練や、ご自身の特性を理解するためのプログラム、そして就職後の職場定着支援までを、包括的に行います。
いわば、一般企業への就職を目指すための職業訓練校と、就職後も伴走してくれるサポーターが一緒になったような場所だとイメージしていただくと分かりやすいかもしれません。
どのような人が利用できるの?(対象者と条件)
就労移行支援は、以下の条件を満たす方が利用の対象となります。
年齢
原則として、18歳以上65歳未満の方です。
状態
精神障害、発達障害、身体障害、知的障害、または指定難病などがあり、一般企業などへの就職(復職)を希望している方。
その他
障害者手帳の有無は、必ずしも必須ではありません。 手帳をお持ちでなくても、医師の診断書や定期的な通院の証明(自立支援医療受給者証など)があり、自治体が「就労移行支援の利用が必要」と判断すれば、サービスを利用できるケースは多くあります。
また、現在休職中の方が、元の職場への復帰(リワーク)を目指すために利用できる場合もあります。
就労移行支援で受けられる具体的なサポート内容
就労移行支援事業所は全国に多数あり、事業所ごとにプログラムの特色(ITスキルに強い、精神障害のケアに手厚いなど)があります。ここでは、多くの事業所で共通して提供されている一般的なサポート内容をご紹介します。
個別支援計画の作成
利用を開始すると、まず専門のスタッフがご本人の希望や悩み、得意なこと・苦手なことなどを丁寧にヒアリングします。その上で、どのような働き方を目指すか、そのためにどのようなスキルが必要かといった、一人ひとりに合わせたオーダーメイドの支援計画を一緒に作成します。
スキルアップのための職業訓練
就職に必要な実践的なスキルを学びます。
- ビジネスマナー
挨拶の仕方、身だしなみ、電話応対、名刺交換、報告・連絡・相談(報連相)など、社会人としての基礎を学び直します。 - PCスキル
Word、Excel、PowerPointといった基本的なオフィスソフトの使い方から、事業所によってはプログラミングやデザインソフトなど、より専門的なスキルを学べる場合もあります。 - 軽作業など
ピッキングや検品、組み立てといった作業訓練を通じて、集中力や持続力を養います。
自己理解とストレス対処法(セルフケア)
安定して働き続けるために、最も重要なプログラムの一つです。
- 自己理解
自分の障害特性(どのような環境が得意で、どのような状況が苦手か)を客観的に理解し、スタッフと一緒に「自分の取扱説明書」を作っていきます。 - ストレス対処法
ストレスを感じた時の自分のサイン(イライラ、不眠、頭痛など)に早めに気づき、そうなる前に対処する方法(ストレスコーピング)を学びます。 - コミュニケーション訓練
認知行動療法やSST(ソーシャルスキル・トレーニング)などを通じて、職場での円滑な人間関係を築くため、上手な頼み方や断り方、意見の伝え方などを練習します。
実践的な就職活動のサポート
訓練と並行して、具体的な就職活動のサポートが行われます。
- 適職探し
自分の特性や希望に合った職種や企業を、スタッフと一緒に探します。 - 書類作成・面接練習
履歴書や職務経歴書の添削、模擬面接の練習など、採用試験を突破するための準備を徹底的に行います。面接にスタッフが同行してくれる場合もあります。 - 職場実習(インターンシップ)
興味のある企業で、実際に仕事を体験する「職場実習」の手配をしてもらえます。働く前に職場の雰囲気や仕事内容を知ることができる、非常に有益な機会です。
就職後の「職場定着支援」
就労移行支援の大きな特徴が、就職して終わりではないという点です。 就職後も、元いた事業所のスタッフが定期的に面談を行います。職場で困っていること(仕事内容が合わない、人間関係がうまくいかない、体調管理が難しいなど)を相談し、解決策を一緒に考えます。必要に応じて、スタッフが職場(上司や人事担当者)とご本人の間に入り、業務量の調整や、特性への配慮(例:指示を明確にしてもらう)といった、働きやすい環境を整えるための橋渡し役も担ってくれます。
利用開始までの一般的な流れ
実際に就労移行支援を利用するためには、いくつかのステップが必要です。
Step1:情報収集と相談
まずは、お住まいの市区町村の障害福祉窓口や、インターネットなどで、どのような事業所があるかを調べます。
Step2:事業所の見学・体験利用
気になる事業所が見つかったら、電話やメールで連絡し、見学や体験利用を申し込みます。事業所によって雰囲気やプログラムは全く異なるため、必ず複数の事業所を比較検討することが重要です。
Step3:自治体への利用申請
利用したい事業所が決まったら、お住まいの市区町村の障害福祉窓口(障害福祉課など)に行き、「就労移行支援を利用したい」と申請します。
Step4:サービス等利用計画案の作成
申請と並行して、「相談支援事業所」のスタッフ(相談支援専門員)に、あなたの希望する支援内容をまとめた「サービス等利用計画案」を作成してもらう必要があります。(セルフプランとしてご自身で作成する場合もあります)
Step5:障害福祉サービス受給者証の交付
提出された書類や面談に基づき、自治体による審査が行われ、利用が認められると「障害福祉サービス受給者証」(通称:受給者証)が交付されます。
Step6:事業所との契約・利用開始
受給者証が手元に届いたら、利用したい事業所と契約を結び、利用開始となります。
利用期間と費用について
利用者が不安に思う、期間と費用についても解説します。
利用期間
利用できる期間は、原則として最長24ヶ月(2年間)です。この2年間の中で、職業訓練から就職活動、そして就職後の職場定着までを目指します。
利用料金
就労移行支援は公的な障害福祉サービスのため、利用料の約9割は公費で賄われ、自己負担は1割となります。
さらに、前年度の世帯(本人と配偶者)の所得に応じて、ひと月あたりの「自己負担上限月額」が定められています。
- 生活保護受給世帯:0円
- 市区町村民税非課税世帯:0円
- 前年の世帯収入が概ね600万円以下の世帯:9,300円
- 上記以外:37,200円
この仕組みにより、利用者の約9割の方が、自己負担0円(無料)でサービスを利用しています。
他の就労支援サービスとの違い
就労移行支援と混同されやすい、他の就労系サービスとの違いを明確にしておきましょう。
就労継続支援(A型・B型)との違い
就労移行支援の目的が「一般企業への就職を目指すための訓練の場」であるのに対し、就労継続支援(A型・B型)は「現時点では一般企業で働くことが難しい方に、福祉的なサポートを受けながら働く場(作業所など)を提供する」サービスです。目的が「訓練」か「働く場の提供」かで大きく異なります。ただし、就労継続支援から就職できる方も多くいます。
ハローワーク(障害者専門窓口)との違い
ハローワークの役割は、主に求人の紹介です。一方、就労移行支援の役割は「働くための訓練、実習、就職後の定着支援」です。多くの場合、就労移行支援でスキルを学びながら、ハローワークで求人を探す、というように、両者を併用して就職活動を進めていきます。
【まとめ】一人で悩まず、専門家と「働く」準備を始めませんか
この記事では、就労移行支援が、障害や病気を抱える方が安心して「働く」準備ができる公的なサービスであることを解説しました。
就職や復職への不安は、一人で抱え込む必要はありません。就労移行支援は、あなたの「働きたい」という気持ちを、専門家と二人三脚で、具体的なスキルと自信に変えていくための場所です。
ただ、実際にこうしたサービスを利用し続けるためには、まずご自身の生活リズムや心身のコンディションが整っていることが土台となります。「通い続けられるか不安」「まずは生活を立て直したい」と感じる方は、ぜひ精神科訪問看護ステーションかがやきにご相談ください。
私たちは、ご自宅への訪問看護を通じて、不安のケアや生活リズムの調整を行い、あなたが安心して就労移行支援に通えるよう、生活の足元からサポートいたします。
自分の特性を理解し、安定して長く働き続けるための第一歩として、まずは私たちと一緒に準備を始めてみませんか。





