ご利⽤者様の状況と背景
当ステーションの訪問看護でご支援させていただいた、30代女性の方の症例紹介です。
この方は3年前まで、強い生きづらさを抱えながら生活されており、気持ちの行き場がなくなると、繰り返しリストカットをしてしまう状態が続いていました。
日中に過ごす場所や役割が定まらず、これまでに作業所や就労移行支援など、就労につながるさまざまな場へ訪れた経験はあるものの、体調や気分が安定せず、どれも長く続けることができない状況でした。本人のなかには「頑張ろうと思っても続かない」「自分には働くことは無理なのではないか」という思いが強くあり、自信を持てずに過ごされていました。
訪問看護スタッフには、主治医の先生から「毎週の通院は継続できているものの、生活のなかでやることがなく、時間を持て余した結果として、リストカットに向かってしまう」というご本人の訴えが共有されていました。本人自身も「やめたい気持ちはあるが、何もすることがないとやってしまう」と話しており、気持ちと行動が結びつかず、苦しさを抱えた状態でした。
実際に⾏ったご⽀援内容
そこで、訪問看護を導入し、生活そのものに寄り添う支援を開始しました。まず大切にしたのは、自傷行為を直接的に止めることを目標にするのではなく、日常生活のなかに『やること』や『役割』を少しずつ増やしていくことでした。在宅B型就労を取り入れ、本人の体調や気分に合わせて、無理のないペースから始めることで、生活に一定のリズムが生まれていきました。
訪問のなかでは、行動療法を軸にしながら、本人の考え方や感情の整理を丁寧に行いました。そして、リフレーミングを通して、できなかった点に目を向けるのではなく、できていることや、少しずつ変化している部分にご自身で気づけるように関わりました。ネガティブな思考が強くなった際も、それを否定するのではなく、一緒に別の捉え方を探しながら、気持ちを言葉にして整理する時間を重ねていきました。
また、この方は真面目で責任感が強く、調子が良くなると無理を重ねてしまい、その反動で心身の不調が強く出る傾向がありました。そのため、訪問のなかで体からのサインに目を向け、疲れが溜まり始めたときの変化や、頑張りすぎてしまうきっかけを一緒に振り返りました。あえてペースを落とす体験や、休むことも大切な行動の一つであるという考え方を共有し、無理をしない生活の感覚を少しずつ身につけていきました。
ご利⽤者様のその後の変化と今後の⽅針
こうした関わりを継続するなかで、本人から「やることが増えて、気づいたらリストカットをしなくなっていた」「以前ほど気持ちが行き詰まらなくなった」という言葉をお聞かせいただけるようになりました。現在は自傷行為は見られず、在宅B型就労を継続しながら、訪問看護を活用して、安定した生活を送ることができています。
本人からは「自分がここまで働けるようになるとは思っていなかった」という言葉や、穏やかな笑顔が見られるようになり、自信が少しずつ積み重なっているご様子がうかがえます。将来的には、リワークプログラムの活用や、一般就労への挑戦も視野に入れ、自分の人生を自分で選びながら進んでいきたいという目標を持ち、訪問看護に前向きに取り組まれています。
この症例は、訪問看護が通院治療だけでは届きにくい生活のなかに入り込み、行動と気持ちの両面から継続して関わることで、ご本人の力が自然と引き出されていった経過です。今、つらさのなかにいる方にとっても、少しずつでも生活は変えていけるという、一つの可能性として感じ取っていただければと思います。