アルコール・ギャンブル依存症とは?症状・治療法と相談先を解説

【はじめに】「やめたいのに、やめられない…」それは病気のサインかもしれません

「今日こそはお酒を飲む量を控えようと思ったのに、結局飲み過ぎてしまった」 「負けを取り返そうと、生活費にまで手を出してギャンブルをしてしまった」 「家族との大切な約束を何度も破ってしまい、自己嫌悪に陥っている」

このような「やめたいのに、やめられない」という葛藤を、一人で抱え込んでいませんか?そのコントロールできない状態は、単なる「意志の弱さ」や「だらしなさ」が原因なのではありません。それは、「依存症」という、専門的な治療が必要な「脳の病気」のサインかもしれないのです。

この記事では、アルコール依存症とギャンブル等依存症の正体から、具体的な症状、そして回復への道筋となる治療法や相談先までを、分かりやすく解説します。

依存症は「脳の病気」。意志の力だけでは治せない理由

依存症を理解する上で最も重要なのは、それが「脳の機能障害」であるという点です。

私たちの脳には、食事や人との交流など、生きていく上で心地よいと感じる行動をすると活性化し、快感をもたらす「報酬系」という神経回路があります。 アルコールやギャンブルは、この報酬系を非常に強く刺激します。この強烈な快感を脳が繰り返し経験すると、次第に脳のシステムそのものが変化してしまいます。

まず、より強い刺激がないと満足できなくなる「耐性」が形成されます。そして、報酬系がアルコールやギャンブルによる刺激に慣れきってしまうと、それらがない時に不快な症状(イライラ、手の震え、不安など)が現れる「離脱症状」が起こるようになります。

さらに、理性や判断力を司る脳の部分(前頭前野)の働きが弱まり、「やめた方が良い」と頭では分かっていても、「やりたい」という脳からの強い欲求に抗えなくなってしまうのです。これが、依存症が「意志の力だけでは治せない」と言われる理由です。

アルコール依存症の症状とセルフチェック

アルコール依存症は、飲酒のコントロールがきかなくなり、心身の健康や社会生活に深刻な問題が生じる病気です。

精神的・身体的な症状

精神的依存
お酒を飲みたいという強い欲求(渇望)が常にあり、飲酒のことばかり考えてしまう。飲酒に対して罪悪感を抱き、気分の落ち込み。

身体的依存
次第に飲酒量が増える(耐性)。飲酒をやめたり量を減らしたりすると、手の震え、発汗、不眠、イライラ、不安といった離脱症状が出る。重度になると、幻覚が見えることもあります。
身体疾患:長期にわたる大量飲酒は、肝臓障害(脂肪肝、肝硬変)、膵炎、糖尿病、高血圧といった様々な身体の病気を引き起こします。

社会生活への影響

仕事での遅刻や欠勤が増える、二日酔いで業務に支障が出る、飲酒運転、家庭内での暴言や暴力、飲酒のためのお金の問題などが生じます。

自分でできるアルコール依存症スクリーニングテスト(AUDIT-C)

これは簡易的なチェックリストです。もし当てはまる場合は、専門機関への相談をお勧めします。

1. あなたはアルコールを含む飲み物をどのくらいの頻度で飲みますか?
飲まない…0点
月1回以下…1点
月2~4回…2点
週2~3回…3点
週4回以上…4点

2. 飲酒する時には通常どのくらいの量を飲みますか?
※1ドリンク=ビール250ml=日本酒0.5合とする
1~2ドリンク…0点
3~4ドリンク…1点
5~6ドリンク…2点
7~9ドリンク…3点
10ドリンク以上…4点

3. 1度に6ドリンク以上飲酒することがどのくらいの頻度でありますか?
※1ドリンク=ビール250ml=日本酒0.5合とする
ない…0点
月1回未満…1点
月1回…2点
週1回…3点
毎日あるいはほとんど毎日…4点

【判定】男性5点以上、女性4点以上で「問題飲酒」の可能性が高いとされます。

ギャンブル等依存症の症状とセルフチェック

ギャンブル等依存症は、ギャンブルにのめり込むことで、日常生活や社会生活に支障が生じている状態を指します。

精神的・行動的な症状

・興奮を求めて、賭ける金額がどんどん増えていく(耐性)。
・ギャンブルをやめようとしたり、回数を減らそうとしたりすると、落ち着かなくなったりイライラしたりする(離脱症状)。
・負けたお金をギャンブルで取り返そうとする(追っかけ)。
・ギャンブルのことで頭がいっぱいになり、他のことが手につかない。
・ギャンブルのことで嘘をついたり、隠したりする。

社会生活への影響

借金を繰り返す、家族のお金に手をつける、ひどい場合は横領などの犯罪行為に至ることもあります。その結果、仕事や信用を失い、家庭が崩壊するなど、深刻な事態を招きます。

自分でできるギャンブル依存症セルフチェック(PGSIを参考に)

国際的な指標であるPGSI(Problem Gambling Severity Index)を参考に、ご自身の状況を振り返ってみましょう。過去1年間に、以下の項目に当てはまることがありましたか?

  • ギャンブルで使う金額が、だんだん増えてきたと感じるか。
  • ギャンブルで負けた後、負けを取り返そうとまたすぐギャンブルをしたか。
  • ギャンブルが原因で、ストレスや不安など、健康上の問題を感じたことがあるか。
  • ギャンブルが原因で、あなたや家族の家計に問題が起きたことがあるか。
  • 自分がギャンブルにのめり込んでいることについて、罪悪感を感じたことがあるか。

これらの質問のうち、一つでも当てはまる場合は、ギャンブルとの付き合い方を見直すサインかもしれません。複数当てはまる場合は、専門機関への相談を強くお勧めします。

依存症からの回復に向けた治療法

依存症の治療のゴールは、単にアルコールやギャンブルを断つことだけではありません。まずは「自分の問題を認め、専門機関につながること」が回復への最も重要な第一歩です。

専門医療機関での治療

心理社会的療法
治療の柱となるのが、専門家との対話を通じて行う心理社会的療法です。代表的なものに認知行動療法(CBT)があります。これは、飲酒やギャンブルにつながってしまう、その人特有の考え方の癖や行動パターンを見直し、ストレスへの対処法など、より現実的な問題解決スキルを身につけるための実践的なアプローチです。
また、同じ問題を抱える仲間と話し合う集団精神療法も、回復の過程で大きな支えとなります。

薬物療法
ギャンブル依存症に直接適応となる薬はありませんが、アルコール依存症の場合は、飲酒欲求そのものを抑える薬(抗渇望薬)や、離脱症状を和らげる薬などを用いることがあります。

自助グループの重要性

医療機関での治療と並行して、あるいは治療後も、回復を支え続ける上で非常に大きな力になるのが、自助グループの存在です。同じ問題を抱える仲間と匿名で体験を分かち合い、「一人ではない」と感じられる安心できる場所です。

代表的なものに、アルコール依存症の断酒会やAA(アルコホーリクス・アノニマス)、ギャンブル依存症のGA(ギャンブラーズ・アノニマス)があります。

ご家族ができること・してはいけないこと

依存症は、ご本人だけでなく、家族全体を巻き込む「家族の病」とも言われます。ご家族自身の心身の健康を守ることも非常に大切です。

○ご家族にできること
・まずはご家族自身が、依存症は「病気」であるという正しい知識を学ぶこと。
・本人がいない場でも、冷静に「あなたのことを心配している」という気持ち(アイメッセージ)を伝える準備をすること。
・ご家族自身も、保健所や精神保健福祉センター、家族の自助グループ(アラノン、ギャマノンなど)に相談すること。

×ご家族がしてはいけないこと
・感情的に本人を責めたり、問い詰めたりすること。
・本人が作った借金の肩代わりをするなど、問題の後始末をすること(イネイブリング)。これは本人の問題意識を失わせ、結果的に依存症を長引かせてしまいます。
・「自分の育て方が悪かったのでは」などと、ご自身を責めること。

どこに相談すればいい?(相談先一覧)

依存症の問題は、一人や家族だけで解決するのは極めて困難です。勇気を出して、専門機関に相談してください。

精神科・心療内科
依存症治療を専門とする医療機関があります。

精神保健福祉センター
各都道府県・政令指定都市に設置されている公的な相談機関です。本人だけでなく、家族からの相談も無料で受け付けています。

保健所
お住まいの地域の保健所でも、専門の相談員がいる場合があります。

自助グループ
断酒会、AA、GAなど。当事者だけでなく、家族向けの自助グループもあります。

【まとめ】一人で抱え込まず、まずは「相談」という扉を開けてください

この記事では、アルコール・ギャンブル依存症が意志の問題ではなく、治療可能な「脳の病気」であること、そして回復のためには専門的なサポートが不可欠であることを解説しました。

回復への道のりは、決して一人で歩けるものではありません。もし、「自分は依存症かもしれない」「家族のことで困っている」と感じたら、どうか一人で、あるいはご家族だけで抱え込まないでください。

まずは勇気を出して、この記事で紹介した相談先のいずれかに、一本電話をかけてみること。それが、つらい悪循環から抜け出し、回復への扉を開けるための、大きな一歩となります。

 

 

 

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