考え方の癖を楽にする認知行動療法。うつや不安への対処スキル

【はじめに】「どうせ自分なんて…」と、無意識に考えていませんか?

「また仕事で失敗した。自分は本当にダメな人間だ」 「友人からLINEの返信が来ない。きっと嫌われるようなことをしたに違いない」日常生活の中で、このような考えが頭に浮かび、気分が落ち込んだり、不安になったりすることはありませんか?

こうしたつらい気持ちの背景には、私たちが普段、無意識のうちに繰り返している「考え方の癖」が影響しているかもしれません。そして、その癖に気づき、少しだけ視点を変えることで心を軽くする具体的なスキル、それが「認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy: CBT)」です。

この記事では、CBTの基本的な考え方から、つらい気持ちと上手に付き合うための実践的なスキルまでを分かりやすく解説します。

認知行動療法(CBT)とは?

つらい出来事があった時、気分が落ち込むのは当然ですが、同じ出来事を経験しても、人によってその感じ方は様々です。認知行動療法(CBT)とは、私たちの気分や行動が、出来事そのものではなく、それをどう受け止めるか(認知)によって大きく影響される、という考えに基づいた心理療法です。

私たちの心は、何か【出来事】が起こると、瞬時にそれを解釈する【認知(考え)】が浮かび、それによって【気分・感情】が生まれ、【行動】や【身体反応】が引き起こされる、という一連の流れで動いています。
例えば、【出来事】「友人からLINEの返信が来ない」に対し、【認知】「きっと嫌われたんだ」と考えると、【気分】は不安になり、【行動】として何度もスマホをチェックし、【身体反応】として胸がドキドキするかもしれません。

一方で、もし【認知】の幅を広げて、「忙しいのかな?」と考えることができれば、【気分】や【行動】は大きく変わるでしょう。
CBTは、このように自分を苦しめている画一的な考え方の癖に気づき、「こういう考え方もできるかもしれない」と考え方の幅を広げることで、つらい気分や行動の悪循環から抜け出すための具体的なスキルを学んでいく、実践的なアプローチです。

あなたの「考え方の癖」に気づく(代表的な10パターン)

気分が落ち込みやすい時には、特定の思考パターンに陥っていることがよくあります。ここでは、代表的な10種類の「考え方の癖(認知の歪み)」を紹介します。ご自身のパターンを見つける参考にしてみてください。

①全か無か思考(白黒思考)
物事を「完璧か、失敗か」のように、極端に捉える考え方。(例:「プレゼンで少し言い間違えた。もう全部ダメだ」)

②過度の一般化
たった一つの良くない出来事をもとに、「いつもこうだ」「今後もずっとダメだ」と、すべてに当てはめてしまうこと。(例:「一度断られた。もう誰からも好かれない」)

③心のフィルター
物事の良い側面は無視して、悪い部分ばかりに注目してしまうこと。(例:「仕事はうまくいったけど、上司の一言だけが気になって落ち込んでいる」)

④マイナス化思考
良い出来事が起きても、「これは偶然だ」と過小評価し、肯定的に受け取れないこと。(例:「褒められたけど、お世辞に決まっている」)

⑤結論の飛躍
根拠がないのに、悲観的な結論に飛びついてしまうこと。「相手は私を嫌っているはずだ」と心の読みすぎをしたり、「どうせうまくいかない」と先読みの誤りをしたりします。

⑥拡大解釈と過小評価
自分の失敗は重大事のように、成功は些細なことのように捉えること。(例:「小さなミスをした自分は最低だ。締め切りを守れたことは大したことじゃない」)

⑦感情的決めつけ
「自分がこう感じるのだから、それは事実に違いない」と、自分の感情を証拠のように思い込んでしまうこと。(例:「こんなに不安なのだから、きっと悪いことが起こる」)

⑧すべき思考
「~すべきだ」「~でなければならない」という厳しいルールを、自分や他人に課してしまうこと。(例:「母親なのだから、常に笑顔でいるべきだ」)

⑨レッテル貼り
一つの失敗から「自分はダメ人間だ」「私は負け犬だ」と、自分自身に否定的なラベルを貼ってしまうこと。

⑩自己関連づけ(個人化)
悪いことが起きた時、自分に関係ないことまで「すべて自分のせいだ」と、過剰に責任を感じてしまうこと。

考え方の癖を楽にするスキル①:認知再構成法

自分の「考え方の癖」に気づいたら、次はその癖を少し楽にするスキルを練習してみましょう。
CBTの中心的な技法が「認知再構成法」です。これは、自分を苦しめている考えを客観的に見つめ直し、より現実的でバランスの取れた、心の幅を広げるような考え方を探していくプロセスです。

コラム法

認知再構成法を実践する上で役立つのが「コラム法(思考記録表)」です。ノートとペンがあれば、誰でも始められます。

①状況|同僚に挨拶したが、返事がなかった
②気分|悲しい(80%)
③自動思考|「私は完全に嫌われている」
④根拠|・挨拶が返ってこなかった
⑤反証|・相手は忙しそうだった ・他の人とは普通に話せた
⑥別の考え|「聞こえなかっただけかも。嫌われていると決まったわけじゃない」
⑦その後の気分|悲しい(30%)

ステップ1:つらい状況と「自動思考」を捉える(①~③)
気分が動いた時の【①状況】、その時の【②気分】、その瞬間にパッと浮かんだ【③自動思考】を書き出します。

ステップ2:自動思考の根拠と反証を吟味する(④、⑤)
その考えが「事実である」と考える【④根拠】と、逆に「事実ではないかも」と考える【⑤反証】(反対の証拠)を、客観的に探します。

ステップ3:「別の考え(適応的思考)」を見つける(⑥、⑦)
根拠と反証を踏まえ、より現実的でバランスの取れた【⑥別の考え】を探し、それによって【⑦その後の気分】がどう変化したかを記録します。

考え方の癖を楽にするスキル②:行動活性化

気分がひどく落ち込んでいる時は、気力すら湧いてこないものです。しかし、CBTでは「気分が良くなったら行動する」のではなく、「行動することで気分が少し良くなる」という逆のアプローチも重視します。これが「行動活性化」です。

まずは、「今の自分でもできそうで、やったらほんの少しでも気分がマシになりそうなこと」をリストアップしてみましょう(行動メニュー)。

  • 【行動メニューの例】
    ・5分だけ家の周りを散歩する
    ・好きな音楽を1曲だけ聴く
    ・温かいお茶を淹れて飲む
    ・ベランダに出て深呼吸する

ポイントは、ハードルを極限まで低くすることです。
この小さな行動が達成感や気晴らしにつながり、重かった心に少しだけエネルギーを注いでくれます。

CBTを始める上での大切な心構え

認知行動療法は非常に効果的ですが、始めるにあたって大切な心構えがいくつかあります。

完璧を目指さない
最初からうまくできなくて当たり前です。少しでも気分が楽になったり、ほんの少しでも行動できたりすれば、それは大きな成功です。

自分を責めない
「考え方の癖」は、あなたが悪いわけではありません。これまであなた自身を守るために身につけてきたものかもしれません。「新しいスキルを身につける」という前向きな気持ちで取り組みましょう。

専門家と相談しながら
CBTは独学も可能ですが、自分の癖に一人で気づくのは難しいこともあります。特に、気分の落ち込みが激しい時や、行き詰まりを感じた時は、無理せず専門家(主治医やカウンセラー)に相談することが、安全かつ効果的に進めるための鍵となります。

日常生活での実践「ホームワーク」の重要性
CBTは、専門家との面接で学ぶだけでなく、学んだスキルを日常生活の中で実際に使ってみる「ホームワーク(宿題)」が最も重要です。コラム法などをホームワークとして継続することが、スキル習得の鍵となりますし、行動活性化もぜひ実際に取り組んでみてください。

【まとめ】心のスキルを身につけ、自分らしい毎日を取り戻そう

この記事では、つらい気分や不安の背景にある「考え方の癖」に気づき、その見方の幅を広げることで心を楽にする「認知行動療法(CBT)」について解説しました。

CBTは、一度身につければ一生使える「心のセルフケア術」です。CBTを学んでも、人生からつらい出来事がなくなるわけではありません。しかし、その出来事によって起こる気分の波にうまく乗りこなし、必要以上に自分を苦しめずに済むようになります。

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