ご利⽤者様の状況と背景
20代に突如パニック障害を発症し、その後約43年間にわたり通院および薬物療法を継続していました。薬物療法により症状の著しい増悪は予防されていたものの、不安や恐怖心は慢性的に持続しており、外出に対する制限や予期不安を抱えながら生活していました。
広場恐怖症による症状として、過去に外出時、冷や汗や動悸などのパニック症状を経験しており、それ以降、不安を感じる状況を回避する行動がみられるようになりました。現在は、自宅から約10キロ圏内であれば車での外出は可能ですが、バスや電車の単独利用は困難であり、高速道路の利用に対しても強い恐怖心を認めています。
日常生活は自立しているものの、不安や恐怖心は常に存在しており、精神的負担を抱えている状態でした。また、家族の理解が十分に得られていないと感じており、不安や恐怖心を他者へ表出することが難しく、感情を内在化する傾向がみられていました。さらに、幼少期の闘病経験や家族からの言葉の影響により、「家族に迷惑をかけてはいけない」という思いが強く、自己肯定感の低さや自己否定的な思考が形成されている様子がうかがえました。
実際に⾏ったご⽀援内容
訪問看護導入時の受け入れは良好であり、「話を聞いてもらえることが嬉しい」との発言が聞かれ、これまで他者へ表出することが難しかった幼少期の体験や自身の思いについて語られるなど、感情の表出がみられました。訪問看護では、利用者の不安や日常生活での出来事について傾聴を中心とした関わりを行い、感情を否定せず受容することで、安心して自己表出できる関係性の構築に努めました。
訪問開始後は、パニック状態に陥ることや著しい気分の変動はみられず、「以前より動けるようになってきた」「不安になることが減ってきた」といった前向きな発言が聞かれるようになりました。このことから、不安に対する対処能力が徐々に向上している様子がうかがえました。最近では、家族とのやり取りの中で、一人で遠出をする必要が生じましたが、利用者は不安や恐怖心を自覚し、「今の自分では難しい」と判断し、無理をせず遠出を控えるという選択をされました。その結果、パニック症状の出現や著しい気分の落ち込みはみられませんでした。
しかし訪問時、「できなかった自分が不甲斐ない」「申し訳ない」といった自責的な発言が聞かれました。そのため看護師は、不安を無視せず自身の状態を適切に判断し、無理をしないという自己防衛行動がとれたことを評価し、ねぎらいの言葉をかけました。すると利用者は安堵した様子を示し、自身の判断を受け入れる様子がみられました。
ご利⽤者様のその後の変化と今後の⽅針
今回の支援事例では、訪問看護師が傾聴を中心とした心理的支持を継続することで、利用者が安心して感情を表出できるようになり、自己理解の促進につながったと考えられます。広場恐怖症では、不安を引き起こす状況を回避することが多くなりますが、本支援事例では単なる回避ではなく、自身の状態を客観的に理解し、無理をしないという適切な判断ができたことは、不安への対処能力の向上を示す重要な変化であると考えられます。
また、これまで他者へ感情を表出することが困難であった利用者が、訪問看護師との関わりを通して自己の感情を言語化できるようになったことは、精神的安定の獲得および自己肯定感の回復に寄与していると考えられます。精神科訪問看護においては、利用者の感情を受容し、安心できる関係性を構築することが、不安の軽減および対処能力の向上につながる重要な支援であると考えられます。今後も利用者の自己決定を尊重しながら、精神的安定を維持し、その人らしい生活が継続できるよう支援を継続していく必要があると考えます。